体験談を読む

夫婦共働きで二人の子を新生児から迎え入れて
――夫の思い、妻の思い

岡村さん一家

さまざまな事情で生みの親のもとで暮らせないこどもを、自分のこどもとして迎え入れる「特別養子縁組」。この制度で、岡村絢也さん、恵子さん夫妻は、2019年に長男を、2021年に次男を迎え、4人家族としてにぎやかに暮らしています。迎えるまでの経緯、生みの親との関係が異なるお子さんたちへの思い、家族としての向き合い方――。夫婦それぞれの思いを語っていただきました。

3年にわたる不妊治療 夫婦の間で自然と考えるようになった特別養子縁組という選択肢

長男りおくん(左)と次男そらくん
長男りおくん(左)と次男そらくん

――特別養子縁組でお子さんを迎えようと決めるまでの経緯をお聞かせください。

恵子さん:結婚して数年経ったころから不妊治療を始めました。途中お休みを入れながら3年ほど続けたのですが、なかなか結果が出なくて……。治療がつらいというよりも、通院のために仕事のやりくりをしなければならないことがだんだんしんどくなっていきました。今回ダメだったら最後にしようと診察室で待っていたとき、ふと特別養子縁組について考えていました。帰宅して夫と話していたら、夫も特別養子縁組について調べていたというのです。驚きました。

絢也さん:治療に関しては僕は何もしてあげられず、妻のしんどさは感じていました。結果が実らず、回数を重ね時間が経過するとともに卵子の数も質も低下していました。妻の心境からも、今回の治療が最後かなと思っていたときに、特別養子縁組について調べていたのです。治療を終わりにしようと二人で決めたとき、ごく自然に「こういう制度を使うのもありかもね」という話になっていきました。

――どのようにあっせん機関を探し、選びましたか?

恵子さん:特別養子縁組がどういう制度なのか、どんな団体があるのかなどをネットで調べることから始めました。本部が東京にある団体が多く、私たちが住む関西で探す中、NPO法人ミダス&ストークサポートを見つけました。制度や登録から委託までの一連の流れがわかりやすく、また、ホームページに実親さんのコメントや子どもを迎えた後の様子がイメージできる情報が掲載されていて親しみも感じ、すぐに資料請求をしました。研修の日程が近く、そこを逃すと時間がかかってしまいそうだったので、夫と相談し、一緒に参加することにしました。

生後9カ月のときのりおくん
生後9カ月のときのりおくん

――民間のあっせん機関を選んだ理由と決め手は?

恵子さん:自治体の児童相談所からのあっせんの仕組みもあると知っていました。たまたま養子相談会をやっていたので参加しました。その際、民間のあっせん団体よりも研修や登録に時間がかかること、私たちは新生児を希望していたのですが、民間の方がその可能性が高いことを知ったのです。ミダス&ストークサポートは、スタッフさんたちが親身に相談に乗ってくれて、そのアットホームな雰囲気が決め手になりました。

絢也さん:当初は妻に任せている部分が多かったのですが、ミダス&ストークサポートの研修は会場の雰囲気がとてもよく、ここなら安心して進めていけると前向きな気持ちで参加できました。実際、非常にスムーズに進み、学ぶことも多く、こちらにお願いしてよかったと思っています。

職場の皆も喜んでくれた長男の迎え入れ

――研修やさまざまな手続きを経て、新生児のりおくんをお迎えになりました。半年間の監護期間はどのような気持ちで過ごされましたか?

恵子さん:お迎えした時点ではまだ実親さんに親権があり、家庭裁判所の審判が確定するまでに、実親さんは特別養子縁組の同意を撤回されることもあると聞いていたので、ちょっと不安はありましたね。りおくんのお世話については、私は甥や姪がたくさんいて、オムツを変えたりミルクをあげたりといったことはこれまでたくさんやってきたので、困ったことは何もありませんでした。
ただ、育休を取得し、一緒にいっぱいお出かけしようと楽しみにしていたのに、コロナ禍でなかなか外に出られない状況になってしまって……。それでも一日中一緒にいたので、りおくんの一つひとつのかわいい表情を眺めながら、「早くしゃべらへんかな」とか「寝返りしいひんかな〜」とか、毎日ワクワクしながら過ごしていました。

絢也さん:僕は妻のように赤ちゃんのお世話には慣れていませんでしたが、だからこそなんでも新鮮で。ただただ楽しい時間でしたね。

夏の小豆島への旅行の一コマ
夏の小豆島への旅行の一コマ

――共働きのお二人ですが、それぞれの職場には特別養子縁組でお子さんを迎えることについて、どのように伝えられたのでしょうか。そのとき、どのような反応、反響がありましたか?

恵子さん:私は高校教員をしており、特別養子縁組の最終の研修を終え、あとは委託されるのを待つだけとなった段階で校長に伝えました。この時点で赤ちゃんを委託される具体的な時期はわからないので、決まり次第育休を取得したい、と。同僚の先生たちには、ちょうどりおくんを迎えるタイミングに学校で職員会議があり、そこで校長が発表してくれました。皆さんが祝福してくれたのはもちろん、同じ悩みを持つ同僚から「今度話を聞かせてね」と言われたり、教員という職業柄、特別養子縁組に興味を持っている先生もいたりして、「自分の職場に特別養子縁組という選択をした人がいるのがうれしい」と言ってくれました。生徒たちもとても喜んでくれて。ただ、クラブ活動の顧問をしていたので、育休を取ると伝えたら「練習どうなるんですか?」と自分たちの心配をしていましたね(笑)。

絢也さん:僕は消防士をしています。直属の上司に事前に特別養子縁組でこどもを迎える準備をしていると伝えると、「英断したな」と喜んでくれました。ただ、必要最低限の人だけにとどめました。正直、お迎えしてから生活や仕事への影響がどうなるのか僕自身まだよくわかっていなかったし、僕らの考え方が間違った形で伝わることは避けたかったのです。今思えばちょっと慎重になりすぎていたかな、とも。自分の理解が深まり、説明できるようになってからは普通に話しています。二人目のそらくんをお迎えするときには周りの理解もあり、上司からは「育休1年取ってもいいよ」と言ってもらいました。そういう職場環境だったからこそうまく乗り越えてこれたのかなと思っています。

――特別養子縁組が成立し、どんな思いでしたか? 悩みや困ったことはありましたか?

恵子さん:ちょうどコロナ禍の最中だったので、手続きが一時中断してしまうなどで通常よりも時間がかかり、最終的な審判が下りたのは1歳のお誕生日直前になっていました。夫婦で「やっと!」とホッとしたことを覚えています。市役所に戸籍謄本を取りに行き、「長男」と書かれているのを見て実感がわきましたね。
りおくんは本当に手がかからない子で、もちろん夜泣きなどはあったけれど、育てる上で悩むほどのことはありませんでした。ちょっと大変だったのは、市役所での諸々の手続き。「これはここじゃない」「それはあちらで」と、窓口を転々とさせられて。私たちが住んでいる自治体で、特別養子縁組の事例がまだまだ少ないことが原因だったのかもしれません。

長男と次男 実親さんとの関係性の違いに戸惑うことも

生後7カ月のときのそらくん
生後7カ月のときのそらくん

――その後、二人目のそらくんを迎えられます。決断をした経緯をお聞かせください。

恵子さん:りおくんを迎えたときから「きょうだいはつくってあげたいね」と夫とは話していたので、りおくんが1歳を迎えるころから動き始めました。りおくんのときに一度経験していたこともあり、手続きも準備もスムーズに進めることができました。保健師さんやかかりつけの小児科の先生も事情をわかってくれていたので、安心してお迎えできましたね。

――そらくんは、現在も実親さんとのやりとりが続いているそうですね。

恵子さん:りおくんのときは実親さんが面会を望まれなかったのですが、そらくんの実親さんは希望されたので、直接お会いしてそらくんを託していただきました。母子手帳や、お腹にいる間の思いを綴ったメモなどもいただいて。私自身、母親としてりおくんを育てているので、実親さんの思い、愛する子と離れなければならない辛さが痛いほどわかって、そらくんを大切に育てていこうという思いと責任感をより一層強くしました。 
そらくんが1歳を迎えるにあたり実親さんの負担にならないのであれば、写真などの成長記録を届けたいとミダス&ストークサポートを通じてお伝えしたところ、ご了承いただき、実親さんからはそらくんのお誕生日にプレゼントを贈りたいという申し出をいただきました。以来、毎年ミダス&ストークサポートを通じたやりとりが続いています。

その一方で、りおくんにはプレゼントは届かない。ふと寂しそうな顔を見せたことがあります。このやりとりを続けていくことで、今後りおくんがつらい思いをするのであればやめた方がいいのかな……。夫にその気持ちを伝えたら、「無理してやめなくてもいいんじゃない?」と。

絢也さん:りおくんの気持ち、そらくんの気持ち、実親さんの気持ち、それぞれを考えてバランスを取ることは大切ですが、すべてを自然体で受け入れた上でどうしていくかを考えるほうが、みんな幸せになれると思うのです。うちの家族はいろんな事情で今ここに集っているけれど、わが家にとってはそれが自然なことだから受け入れていく。それがわが家のスタンダードになっていけばいいなと思ったのです。

恵子さん:りおくんは「僕を産んでくれたお母さんは、僕のことどう思ってるんかな?」と聞いてきたりはします。ミダス&ストークサポートからは嘘になってしまうような伝え方は避けるようにと言われているので、「父ちゃんも母ちゃんもわからへんけど、りおくんのことは大切に思って産んでくれたと思うよ」と伝えると、「そうなんかな〜」なんて言いながら、小さいなりに一生懸命理解しようとしている。そんなりおくん、そしてそらくんのことも、ありのままを受け入れることが、夫が言う岡村家スタンダードになるといいなと私も思っています。

生後2週間のそらくんとりおくん
生後2週間のそらくん(右)とりおくん

――6歳になったばかりのりおくん、とてもしっかりしていますね。

恵子さん:保育園でも「理解力がある」と言ってもらって。親バカですが(笑)、すごくしっかりしていると思います。そらくんにも実親さんのことは話していますが、「あ、そーなん」ぐらいの反応で(笑)。繊細でしっかり者の長男と、自由気ままな次男。男の子の兄弟あるあるそのまんま、という感じの二人です。

絢也さん:僕らは特別なことを教えたわけでもなく、自然に育ててきたけれど、りおくんはこちらが思っている以上に色々なことを察しようとしています。実親さんへ「産んでくれてありがとう」と感謝の言葉を口にしたりして。悲しく感じることもあるんだろうけど、自分なりに前向きに捉えてるんやろうなと感じますね。

――特別養子縁組で迎えたお子さんを養育する上で、誰かに悩みを相談したことはありますか?

恵子さん:正直、悩みや困ったことは何もなかったのですが、りおくんをお迎えする前に、真実告知をはじめ新生児を迎えるためのさまざまな準備はミダス&ストークサポートの研修で学んでいたこともあり、もし何かあればスタッフさんに相談すればいい、という安心感はありました。市役所の窓口を転々としたことなど、私たちが経験したことはミダス&ストークサポートに報告し、これから養親さんになる方々のために参考にしてもらえたらいいなと思っています。

「うちにきてくれてありがとう」「大切に育てていきたい」

――改めて、りおくん、そらくんへの思いをお聞かせください。

恵子さん:うちにきてくれてありがとう、という感謝の気持ちが一番ですね。これからどんなことに興味を持ってチャレンジするのか楽しみです。そのための環境はしっかりと作ってあげたい。これから反抗期が訪れたとき、この親子関係について何か言ってくることがあるかもしれないけれど、どんなことでも受け止めよう、受けて立つぞ!という気持ちでいます。

絢也さん:りおくんとそらくんはもちろん、彼らを産んでくれた実親さんにも心から感謝しています。共働きでなかなか時間は取れないのですが、休みが一緒の日は家族4人で出かけることが本当に楽しくて。そうしたいろんな体験を通して二人が元気でたくましく成長することは、実親さんの安心にもつながると思っています。将来、本人たちが実親さんに会いたいと願い、先方も受け入れてくれる環境が整うなら、二人の背中を押してあげたいし、こどもたちの成長した姿を見せることで感謝の気持ちを伝えたい。そんな日が来るかもと想定しながら、大切に大切に育てていきたいと思っています。

――最後に、特別養子縁組を考えていらっしゃる方々に、メッセージをお願いします。

恵子さん:制度のことがよくわからないうちは不安もあるとは思いますが、私たちは選択して本当によかったと感じています。「特別」とついていますが、夫も私も、親子関係に関しては何も特別なことはないという気持ちで育てています。実子でも子育てする上では悩みがあると思うので、特別養子縁組だからと迷っているのであれば、まずは児童相談やあっせん機関に具体的な話を聞いてみるなど飛び込んでみては? 見えてくること、得られるものはあると、経験者としては思っています。

絢也さん:一緒に生活していて「この子は養子やし」なんて考えることはありません。今回のようなインタビューを受けたとき、「ああ、そうやったな」と思い出すぐらいです。今感じている不安は、こどもを迎えたら全部吹き飛ぶと思います。人生はうまくいかないことの方が多くて、それを乗り越えていく中に楽しさや幸せがあるのかな、と。踏み出したその一歩が、こどもたちはもちろん、実親さん、養親さんのご家族の幸せにもつながると思うので、ぜひ勇気を出していただきたいですね。

PROFILE
おかむら・じゅんや おかむら・けいこ 絢也さんは消防士、恵子さんは高校の教師として働きながら二人の子を育てている。りおくんの名前は「桜は桜、梅は梅、桃は桃、李は李、違いはあってもそれぞれに良さがある」という意味の「桜梅桃李」という言葉から名づけた。そらくんの名前は「空は世界中どこでもつながっている。そらくんも実親さんとつながっているという意味を込めました」。
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