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特別養子縁組成立は「ゴール」ではなく「スタート」 川崎市・大分県の伴走型アフターフォローが描く支援のかたち
見守る存在として「切れ目のない」サポートを目指す
特別養子縁組は、こどもを迎えた瞬間がゴールではなく、新たな家族として歩み始めるスタートラインです。特別養子縁組が成立すると行政のサポートは減少しますが、真実告知や発達の課題など子育ての困りごとは、むしろその後に顕在化することが多いという課題があります。川崎市の「かわさき里親支援センター さくら」と大分県の乳幼児総合支援センター栄光園 養子縁組里親支援機関「ブレス・ユー」は、特別養子縁組成立後も養子縁組里親・こどもと長期にわたりつながる「伴走型」の支援を実践しています。両機関の取り組みを通して、継続的なサポートの重要性を考えます。
児童相談所の関わりが終わった後に直面する子育ての悩み
特別養子縁組で迎えられるこどもの多くは0~2歳です。家庭裁判所の審判を経て特別養子縁組が成立するまでは、児童相談所(児相)など行政からサポートがありますが、成立から半年程度で定期的な関わりは終了してしまいます。しかし、こども自身が生い立ちを理解するためのライフストーリーワークや、特別養子縁組した親子であることなどを丁寧に伝える真実告知(テリング)の進め方、心身の発達課題などは成長とともに表れることがあり、支援の切れ目が家庭の孤立を招く場合もあります。そうした養子縁組里親側の不安や戸惑いにどう応え、こどもを継続的にサポートしていけるかが、両機関における支援の出発点になっています。
「かわさき里親支援センターさくら」は、2020年9月に設立されました。緊急性の高い児童虐待への対応が増える児相に対し、里親支援の充実を図るため、川崎市が乳児院などを運営する社会福祉法人厚生館福祉会に事業委託し、特別養子縁組を前提とした養子縁組里親に関するフォスタリング業務を担う「センターさくら」が生まれました。
「赤ちゃんの頃からご家庭を知っている私たちが継続的に伴走し続けることに大きな役割があると思っています。個別の事情や養育方針などに応じたきめ細かいサポートを心がけています」と統括責任者の溝部聡子さんは話します。
センターさくらの支援対象は、川崎市の養子縁組里親家庭(2026年1月時点で87家庭)で、現在、常勤4人、非常勤2人の計6人の職員で川崎市の児相からこどもを迎えた約35家庭のアフターフォローをしています。特別養子縁組成立以降も毎年こどもの誕生日に家庭訪問するほか、随時、子育てや養育の悩み、特別養子縁組家庭固有の問題の相談に応じています。相談員は担当家庭を固定せず、それぞれが「顔の見える」関係を作ることを重視しています。家庭訪問にはペアで訪れ、一人がこどもを見ている間に、一人が里親の話をじっくり聴くなど、複眼での観察と対応を心がけているそうです。
「愚痴を聞いたり、息抜きに一緒に散歩したりということも。ある家庭のこどもには『ママのお友だち』として接していることもあります。支援というより、時々やってくる親類の人といった関係に近しいかも知れません」と溝部さん。こうした柔らかな関係性が、養子縁組里親が気兼ねなく相談できる土壌を作っています。
ささいな相談の積み重ねで信頼関係を築く
大分県では、2024年に県の委託で養子縁組里親支援機関「ブレス・ユー」が設立され、2025年から本格稼働しています。運営主体は県内唯一の乳児院を運営する社会福祉法人「栄光園」で、同園が建て替えを機に高機能化・多機能化を図り、この「ブレス・ユー」は乳幼児総合支援センター栄光園の一部門となりました。児相経由でこどもを迎え入れた特別養子縁組家庭のほか、県内在住の民間あっせん団体経由の縁組家庭も含めて訪問支援を行っています。
統括責任者の本庄公多子さんは、乳児院での相談員の経験から「支援が切れた後、どこに相談すればいいのかという養子縁組里親さんの不安は切実」と話します。「養育里親さんの場合は、今育てている目の前のこどもに関する悩みが多いですが、養子縁組里親さんは家裁の審判結果の行方や、真実告知はいつすればよいかなど、未来に関わる不安が中心です。支援する対象を分けた方が、より抱えている課題に寄り添うことができると思っています」
「ブレス・ユー」では現在、本庄さんのほか、里親委託推進委員の後藤真由美さん、里親訪問・養育支援担当の渡邉由季さんが、7組の家庭を直接訪問して支援しています。また、児相と連携して、生まれる前にこどもを里親に託すかどうか迷っている実親に対しても、相談にのっています。
訪問支援では、初めて子育てするご家庭がほとんどなので、授乳や沐浴(もくよく)、寝かせ方など基本からアドバイスしていくそうです。「だれでも初めての子育ては不安です。気兼ねせず、『いつもと泣き方が違うけれど大丈夫?』など、どんなささいなことでも気軽に連絡して欲しいと皆さんに伝えています」と本庄さん。「顔を見て『大丈夫ですよ』と言ってもらえるだけで安心した」といった感想が届くと、そんな小さな積み重ねから信頼関係が築かれると感じているそうです。
養子縁組里親同士、こども同士がつながるコミュニティづくりも
両機関の支援は、家族同士がつながる「場づくり」にも力が注がれています。
「ブレス・ユー」では、昨年10月、初の試みとして一泊二日の親子キャンプを実施しました。日帰りを含め11家族が参加し、親子で交流を深めたほか、ゲストに招いた養子当事者と語り合う機会も設けました。
また、こどもの年齢によって直面する課題が違うことに配慮し、年齢別に参加家庭を分けた「真実告知」をテーマにしたサロンも実施する予定です。「県内の養子縁組家庭がゆるやかにつながり、親同士、こども同士で悩みを共有し、解決していけるようなコミュニティに育っていくことが目標。そのお手伝いができれば」と本庄さんたちは語ります。
「センターさくら」でも、「縁組ひろば」と名付けた参加型のイベントを行っています。親子で集う「さくらんぼ」や、親同士がより深い話をする「パパ会」「ママ会」、情報をアップデートしたり実践的に学んだりする「フォローアップ講座」が三本柱です。「さくらんぼ」に参加するこどもたちは、まだ自分が養子だと分かっていない子もいますが、幼なじみのような感覚で関わり、将来支え合える仲間になってくれれば、と溝部さんは願っています。
多岐にわたる相談内容、家庭の事情に寄り添い答えを探す
現場に寄せられる相談は多岐にわたります。ライフストーリーワークや真実告知に関するものなど特別養子縁組家庭ならではのものはもちろん、こどもの発達や不登校、友人関係といった相談も目立つそうです。溝部さんによると最近増えているのが「夫婦関係」の悩みだそうです。
「夫婦それぞれが、こどものことを思うがゆえに『養育方針が合わない』などでぶつかることもあります。ご家庭の背景や事情を知っているだけに、相談しやすい面もあるのでしょう」
また、こどもの発達や心の問題、不登校といった課題に直面したとき、原因を「養子縁組里親だから」「養子だから」という境遇に求めてしまうことがあります。そんな相談を受けたとき、溝部さんは「原因を突き詰めることより、いま、こどもにとって一番ベター、ベストな対応を考えていきましょう」とアドバイスするそうです。それぞれの家庭の事情や養育方針に寄り添いながら、しかるべき機関の窓口につなぎ、一緒に答えを探していくのが「伴走者」としての基本姿勢です。
支援にゴールはない。ひたすらに伴走を続ける
支援に携わるみなさんの喜びは、さまざまな「成長」を実感できた瞬間だと語ります。
「お子さんの成長はもちろんですが、最初は抱っこするのもぎこちなかった方が、しばらくすると、自信をもって『親子』になっていく。その成長の過程に寄り添い、ともに喜び合えることが、この仕事の何よりのやりがいです」と本庄さんは話してくれました。
また、今後の課題については、学齢期・思春期を迎えるこどもたちへの支援の充実だと両機関とも指摘しています。特別養子縁組制度は、こどもたちの生活と成長を保障することが重要であり、養子縁組里親へのサポートだけではなく、こどもたちとどうつながっていくのかも求められています。
「少なくとも、こどもが18歳になるまでは、センターの各種専門職員とも連携しながら切れ目なく支援していきたい」と本庄さん。「『ブレス・ユー』がいつまでも、『こんなことがあったよ』と気軽に話に来てもらえるような場所であり続けたいですね」
溝部さんは「たとえば自分のルーツを知りたいというこどもの権利に、どう応えていくか。養子当事者同士のつながりをどう作っていけるかも重要だと思います。成長して壁にぶつかったり、悩んだりしたときに、私たちのことも思い出し、頼ってもらえる選択肢になれれば。支援やつながりにゴールはないのだと思います」と話しました。
特別養子縁組成立後の長い子育ての道のりを専門機関が伴走し、社会全体が「応援団」として見守っていく……。川崎市と大分県の取り組みは、こどもたちの最善の未来のために、必要なときに手を差し伸べる「伴走者」の存在と、切れ目のない支援がいかに重要であるかを教えてくれました。
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